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2012年07月29日

「新遊牧騎馬民族 ノマドの時代~」を読んで

「新遊牧騎馬民族 ノマドの時代~」を読んで
「新遊牧騎馬民族 ノマドの時代 ~情報化社会のライフスタイル~
1989年 黒川紀章 著



皆さんは黒川紀章という人をご存知でしょうか?
彼は世界的建築家であり、亡くなる直前の2007年には、都知事選に立候補し、お茶の間でも話題になった人物です。彼が建築家としてどれだけすごいかということを説明すると、とても長くなるので、かなり割愛しますが、彼はメタボリズム運動のコアメンバーで、都市や建築の有機的成長を構想・提案・実践してきました。また政治の世界でも、出馬した選挙のアイディア表明や渋谷区長選での宅八郎氏の応援などで、異様に幅広く、ボーダーレスに政治活動を行った偉人=異人でもあります。

そんな彼の建築・政治活動の根幹となる未来予想記が数冊あります。
今回紹介するこの本は、中でもメタボリズム以降の現代、次世代にまで彼の思想が記されています。昨今のノマドブームでは、システムやサービスの指標に基づき、ノマド論を展開するケースが多いと思います。しかし彼のノマド論は、4半世紀前に書かれたものであり、尚且つ「江戸時代の社会システム」を指標に、未来予想図を描いているのです。彼の建築には、前衛的なシステムや形態がよく現われている思いますが、この本を読んで驚いたのは、世界的前衛建築家の彼は、江戸が超アヴァンギャルドで、未来もそれに習うべきだという強い信念を持っているということでした。文中には、TPPを匂わせるような内容もでてきました。私たち建築家は、希望をもって未来を描く使命があると強く感じさせられた一冊でした。

〈追記〉
実は、私がこの本を読む前に、師匠から聞いていた逸話があります。
沖縄の県庁を彼が設計した初期案には、県民広場が無かったそうです。なぜそうしたかは、この本を読めばよく理解できます。結局、沖縄の設計共同組合の意見を尊重するかたちで、あの世界の巨匠が修正案(原案)を用意したそうなのです。「黒川紀章という人は、意外と人情深い人でしたね~」と師匠が言ってました。
体格は小さいけど、とても大きなスケールを巧みに扱い、未来を200年前をモデルに描く。そしてなによりも最終的には、理念より「現実」を優先する。彼は思想家である一面、いち建築家(現実に残す)だった。尊敬します。


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